リーガルジャンピングスパイダーの飼育
2023 Blue Gecko lab.
オスのアダルト個体
画像の個体は当ラボの種親
珍しいブルーファングのWCです
はじめに
本種は大きさ、可愛さ、美しさを兼ね備えた素晴らしいハエトリグモです。
英名のRegalは「王者らしい」「帝王に相応しい」「荘厳な」等を意味する形容詞であり、その堂々とした存在感を表しています。
そんな魅力的な本種ですが、飼育方法はネット等で調べてもあまり多くないようです。
そこで当ラボでの飼育管理方法をケアシートとして開示させて頂きます。至らない内容ではありますが、飼育を検討されている方の一助となれば幸いです。
※本ケアシートはあくまで当ラボでの管理に基づいたものであり、飼育や繁殖の成功をお約束するものではありません。一例として参考にしてください。
分布・特徴
学名:Phidippus regius
英名:Regal jumping spider
本種はハエトリグモ科Phidippus属に分類される大型のハエトリグモです。
自然化ではアメリカ南東部からフロリダ半島周辺をはじめ、アンティル諸島(キューバを含むカリブ海の島々)にかけて分布しています。最大体長は頭胴長で2センチ程に達し、脚を広げたレッグスパンは3センチ近くにもなります。アダンソンやミスジ等日本国内の室内等で見られる一般的なハエトリグモと比べるととても大きく感じるでしょう。
アダルト個体の大きさには個体差がありますが、最終サイズは成長過程の栄養状態にも左右される為、給餌の頻度や量が不十分だと成体サイズも小型化するように感じます。また近親交配で累代する事によっても矮小化していく傾向があると感じます。
私は分類学に明るくないので漠然としか理解できていませんが、同じリーガルジャンピングスパイダーでもいくつかのタイプ違いが流通する事があり、メスの体色にオレンジ色がかなり強く出るキューバ産が比較的有名です。過去に一度、フロリダ半島南端のエバーグラディ産として流通したタイプを入手した事がありますが、キューバ産と見分けがつかないくらいメスのオレンジ色が強く出ていました。この事から生息地が南下するほどメスのオレンジ色が強く出る傾向があるのではないかと思ったりもしますが真相は謎です。
その他にもメスの体色も黒味が強いブラックフォームというタイプが流通した事もありますが、これが地域個体群なのか血統なのか個体差なのかは不明です。
また、本種とそっくりな同属別種のボールドジャンピングスパイダー(Phidippus audax)も稀に流通します。
Phidippus属には隠蔽種なんかもいるのかもしれませんし、自由奔放な流通名にはいつも惑わされますが、当ラボで扱うリーガルジャンピングスパイダーに関しては種親入手時の名称で扱っています。ロカリティ等特別な記載がない場合は北米産Phidippus regiusとご理解ください。
雌雄判別
オス ♂
・狭角(牙)の色は緑~青緑
・体色は白黒のモノトーン
・第一脚(前脚)がメスより著しく長い(終齢時限定)
メス ♀
・狭角(牙)の色は緑掛かった金色や赤紫など様々
・体色は黒を基調にベージュやグレー、オレンジ色が入る。
・体形がオスよりずんぐりとして毛深く、重量感がある
最終脱皮を終えたフルアダルトの個体は上記の特徴がより顕著になりますが、性的二形が顕れる前は雌雄判別が難しいです。狭角の色はそもそもかなり個体差があり、若齢ではオスの狭角も赤っぽかったりしますし、狭角が緑色のままアダルトになるメス個体もいます。また、オスの第一脚が長大化するのは最終脱皮後です。
当ラボでの判別法ですが、オスの体色は成長段階に関わらず生涯に渡って白黒なので、オレンジや茶色の発色が少しでも確認できればメスと判断しています。難しいのはオス判定で、オスだと思っていた白黒の個体が成長過程でオレンジや茶色が発色し始める事があります。
相当数の個体を扱っているとなんとなく雰囲気で判別できるようになりますが、それでもベビー段階での判別は難しいと思います。ちなみに当ラボでは若齢の段階で雌雄判別をし、確定ペアとして販売していますが、過去に判別を誤ったことはありません。雌雄が怪しい個体はそもそもペア販売のラインから外している為ですが、万が一判別ミスがあった場合はご購入者様と協議のうえ、個体の交換や返金等の対応をさせて頂きます。
ケージ
徘徊性の本種はケ−ジ内をよく動き回ります。温湿度の勾配を鑑みてもケージは広いに越した事はないとも言えますが、あまり広過ぎても生体を視認できなかったり、餌昆虫との遭遇率が低くなってしまったりするので程々がよろしいでしょう。
具体的にはケージの1辺が10センチ程度あれば問題なく飼育可能です。
乱暴に言ってしまえば生体をお送りする際のバイアル瓶でも終生飼育は可能だったりしますが、本種はハエトリグモとしては非常に大型です。あまり狭いと生体のストレスにもなりますし、必要充分な営巣ができず脱皮不全のリスクが高まります。そもそも動き回るところを観察できないと飼っていても楽しくないでしょう。
飼育容器は通気が確保されていて脱走出来ないモノであれば何でも構いません。小型のプラケースが手頃ですが、ご自身で通気加工を施す事ができれば食品保存容器やガラスボトル等、お好みの容器で飼育可能です。
※当ラボ特製のガラス飼育容器(レイアウト込)を販売開始しました。よろしければこちらからご覧ください。
ケージあれこれ
販売時のバイアル瓶
小型プラケース
BGL特製ガラス飼育容器
■ケージのフタと巣のジレンマ
徘徊性のクモではありますが、体の大きさより一回り大きな繭状の巣を張ります。ケージ最上部の角に営巣する事が多いので、飼育容器が上蓋式だと蓋とケージ本体の間に営巣してしまい開閉の度に巣を破壊してしまいます。ケージの開閉の頻度そう高くないですし、壊されても健気に新しい巣を張り直してはくれます。理想を言えば前開きのドアがある飼育容器がベストでしょう。
■蒸れの恐怖
ケージで飼育するどの生物にも当てはまりますが、本種の飼育において一番の禁忌は「蒸れ」です。通気性の低い飼育ケース、給水のし過ぎ等は特に蒸れやすく、ケージ内が結露するような環境は大変危険です。また、高温下の方がより蒸れやすいので特に夏場はご注意ください。
■雌雄の同居
雌雄は常時同居飼育だと共喰いのリスクが非常に高いのでペアリング時以外は個別飼育が必須です。ペア飼育でも飼育容器は2つご用意下さい。
■ケージ内レイアウト
本種はケージ内壁面や天井も歩くことができるので、何もレイアウトしていないシンプルなケージでも飼育は可能です。とはいえあまり殺風景なのも寂しいですし、園芸ネット等で補助的な足場や、小型の水容器程度は入れてあげたいものです。さらに発展させればミニ観葉やフェイクプランツ等の植物や、流木等でレイアウトしてあげると観賞価値が高まるでしょう。床材も衛生が保てるのであれば無くても大丈夫ですが、排泄物(本種のフンは白い液状です)や餌の食べ残しを放置するとダニの発生源にもなる為、キッチンペーパー等を敷いて定期的に交換しても良いでしょう。ちなみに当ラボでは床材としてソイルを敷いています。鑑賞面はもちろん、ある程度の吸湿効果や保湿効果も期待でき、湿度面で安定するように感じています。
温度・湿度
本種は北米大陸南東部やフロリダ半島、中米にかけて分布しています。
亜熱帯であるフロリダは一年を通して暖かく、年間気温は約20℃~29℃です。
当ラボでは通年25℃前後を維持していますが多少上下しても問題は無さそうです。エアコン管理ではない場合、冬季の保温は小型の赤外線のプレートヒーター等を床面の1/3~半分が当たる程度に調整し、保温しつつも好適温度を選べるように設定するのが最も安定するでしょう。
湿度は室内の常湿で問題ありませんが、数値としては50~60%が適当と思われます。ジメジメしているよりはサラッとした湿度感の方が断然良いのですが、冬季の過度な乾燥にはご注意ください。
エサ
■餌の種類とサイズ
本種は基本的に活き餌しか食べません。ヨーロッパイエコオロギやレッドローチ等が入手しやすいでしょう。また、身体の小さなベビー期はキイロショウジョウバエやトリニドショウジョウバエも使用できます。
生体の成長に合わせてエサのサイズを変更しますが、基準としては全長の半分程度のサイズが望ましいでしょう。生体のサイズに対してあまり小さな餌だと数を与える必要がありますし、極端に小さいと餌として認識しない場合もあります。
また、優秀なハンターであるハエトリグモは、自分の体長の倍程度の獲物でも狩る事がありますが、あまり大きいと怯えて捕食しない事もありますし、餌昆虫から攻撃されてしまうリスクもあるのでご注意下さい。
ちなみに当ラボではヨーロッパイエコオロギ単用で飼育しています。ベビー期は初齢ピンヘッド、アダルト個体にはMサイズ程度ですが、特に身体の大きなアダルト個体には成虫のイエコを与える事もあります。クモに対して大き目のイエコを与える場合は、後肢を取り去る等の処置をして捕食しやすくしてあげると良いでしょう。
■給餌頻度
当ラボでの給餌頻度は、ベビー~ヤング期は成長を促す為にも餌を切らさないようにしていますが、成長とともに徐々に間隔を開け、アダルト個体には週1回程度です。食べきれない量の活餌がケージ内をウロウロしていると生体のストレスにもなりますし、食べ残しや死骸の放置はダニの発生源や環境悪化の要因となります。速やかに除去しましょう。
本種は空腹時には腹部が萎み、満腹時はパンパンに膨らむので、空腹度は外見からわかりやすいと思います。飼育の過程で最適な量と頻度を掴めるようになるでしょう。ちなみに絶食にはかなり耐性がある印象です。
■脱皮と給餌の兼ね合い
脱皮前は数日から長いと数週間程度巣に引き籠もります。その間は餌を摂らないので、脱皮を済ませ巣から出てくるまでは刺激しないようそっとしておいてあげるのが良いでしょう。
■残りの命は恋に捧ぐ
終齢になったフルアダルトのオスは生殖行動のみに集中する為か極端に食欲が落ちる傾向があります。全く食べなくなるわけではありませんので様子を見て給餌しましょう。
メスの食欲は終齢になっても変化はありません。特に繁殖を狙う場合は、終齢になってからの栄養状態が充分でないと産卵数や卵の質が下がるように思います。産卵に備えて充分な栄養を摂らせてあげましょう。
■水
給餌頻度によってはエサ昆虫からの水分摂取で充分だったりもしますが、脱水が怖いので別途与える方が良いでしょう。ある程度の湿度保持の為にも、保険的に水容器を常設する事をオススメします。ちなみに当ラボでは給餌の際にケージ壁面に霧吹きで与えています。
成長と寿命
脱皮をする度に齢がカウントされます。産まれた時点では「初令(初齢)」一度脱皮をすると「2令」という感じで、最終脱皮をしたフルアダルトが「終令」となるわけです。本種は8~9回の脱皮で終令になるのですが、どうも終令までの脱皮回数には個体差もあるような気がします。成長期の栄養状態や近親交配の度合いによっても成体のサイズはマチマチだったりしますし、終令の判断は悩ましいところです。
本種の寿命は個体差や管理状態によってかなりバラツキがある印象ですが、体感ではオスの方が寿命が短く1年程度、メスで1~1年半程度でしょうか。過去には2年近く生きたメス個体もいました。
1センチ前後(4~5令)の販売個体
あまり若齢過ぎると飼育が難しい面もある為、当ラボではある程度育ててから販売しています。
繁殖
繁殖についての情報は当ラボでのご購入者様のみに開示します。
生体と併せて別紙「繁殖のポイントと注意点」を同梱させて頂きます。当ラボでの繁殖方法を出し惜しみする事なく、A4用紙4枚に渡って解説しておりますので、よろしければご参考になさってください。